パチンコ・ランチ・グライダー

グライダーに夢中!


 「ひまつぶし」の人生とは言え、つぶし方にも色々ありで人によって千差万別、うまいもあれば下手もあるというところか。俺のようにただダラダラ過ごす惰性人間もいれば、生き生きと目を輝かせて一つのことに没頭する人たちがいる、仕事や金儲けではそうはいかない。つまり<ひまつぶしの達人>たちだ。今日はウオーキングの途中で、少年のように時を過ごしている達人たちに偶然出会った。

 例によって午前中から歩いたのは<21世紀の森と広場>、ここは東京ドーム11個分の面積がある。その中の<光と風の広場>を二人でソフトクリームを食べながら歩いている時だった。50センチ角くらいの木製の箱を芝生の上において何か作業している人たちがいた。あまり見かけない行動だった。何んとなくぼんやり眺めていると箱の中から小さな模型飛行機をゾロゾロと出し始めた。それをひとつひとつ点検するように見つめながら順に並べている。思わず少しづつ近寄って行った。
 彼らは準備が整ったらしく立ち上がって広場の中心に向かって歩いた。そしてやおら取り出したゴム付きの棒に、その30センチもない小さな飛行機を引っ掛け、空に向ってビュンと飛ばしたのだ。息を飲んだ、模型飛行機はあっという間に20メートル以上高く上がり、そのまま風に身を委ね旋回しているではないか!真っ青な空に両翼を揺らして、、あぁ、なんて気持ちよさそうなんだ!そしてそれは20秒ほどだったか「夏空の舞い」を私たちに誇らしげに披露すると、はるか彼方の森に消えていった。私たちはいきなり過去の人生で出会ったことのない光景に遭遇し声を失ってしまった。 
 もう、黙って通り過ぎることはできなかった、これは聞いてみるしかない。それは「フリーフライト」という一種の航空スポーツなんだそうだ。ラジコンのように地上で操縦せず、とにかく空高く飛ばし上げるグライダーというわけだ。競技はその滞空時間を競うというルールで、飛ばし方や飛行機の形状でいくつかジャンルが分かれているらしい。
 子供のころ父親に手伝ってもらいながら作ったゴム動力の竹ひごと紙でできた模型飛行機(ライトプレーン)などもその一種で、最近はインドアで長時間浮かせて競うものなどあり、それはテレビで見たことがある。なかには手で投げて飛ばすのもありハンド・ランチ・グライダーと呼ぶそうだ。
 今日見せてもらったのはパチンコ・ランチ・グライダーと呼ばれているものだそうで、バルサで作った両翼と尾翼を割りばし大の胴体の先端に鉛の重りをつけゴムの力で発射する。もちろん手製でこの出来と発射の仕方が滞空時間を左右する。風によっては5分も飛んでいて降りて来ないこともあるという。
 とても親切にお話をしてくださった方から、「模型飛行機倶楽部・ランチャーズ」という会報を頂戴した。拝見して驚いた、なんとフリーフライト世界選手権があるんだそうだ。航空スポーツというのも初耳だが世界統括団体であるFAI(国際航空連盟)なる団体があるなんて知らなかった。このFAIが主催で、2005年にはアルゼンチン今年はウクライナで行われ、会報発行後だったが日本チームのひとつはある部門で団体優勝したんだそうだ、おみごと!

 世の中には知らないことがあり過ぎる、やってみませんかと言われて何度か挑戦させていただいた。いや、それはもう楽しくて堪らなかった。飛ばすだけなら難しくはないが奥が深そうだ。自分が空に向かって飛ばした飛行機が、まるで鳥のように悠然と飛んでいる。空なんて普段あまり見ないが、目に染みるほど青いことを忘れていた。心が広々した気分になった、人間はなんて小さいんだろう。
 飛行機は風まかせ、いったん飛んでいくとブーメランみたいに近くに戻って来ないのもある。はるか彼方の森に消えたものは回収しない。写真の男性に、もったいないですねとセコイことを聞くと「飛ばす時も楽しいが、飛翔する姿を思い描きながら作る時もこれまた喜び」と話していた。なるほど、そうだろうな、なんとなくわかる気がする。
 お年を聞いてまたびっくり、80歳になられたとのこと、万歩計をつけ2万歩位歩き、強風や雨のない日は毎日飛ばすんだそうだ。全く病気知らず、さもあろう、ご本人は「これをやってると20年刻みで少年に帰る」と笑って話してくれた。カッコ良いジーンズは娘さんから贈られたという、これが実に似合う。
 これは始めたら嵌るだろうな、ひまつぶしの達人たちに元気をもらった。私は帽子をとり最敬礼をしてその場を去った。振り返ると真っ青な空で飛行機が旋回しながら私たちを見ているようだった。

 LAUNCHERS(ランチャーズ)のサイト  http://www.yp1.yippee.ne.jp/launchers/