Vol.2 プールサイド・フレンド

My friend


 夏が夏らしくなってきた、私の好きな季節である。カッと照りつける太陽、ジリジリと焼ける肌、ドッと流れ出る汗は生きていることを実感させてくれる。
一日に何度もシャワーを浴びる、もちろん冷水でジャバジャバ…、あぁ快感!そして部屋まで素っ裸で歩き扇風機のスイッチを最強にするとその前に仁王立ち、、サイコー! でも、本当はプールに飛び込みたい気分である。
 ペナン島コンドミニアムを借りると、日本人が住むクラスのところは大概プールが付随している。プールと言っても千差万別で、私は結構こだわっていたから必ず不動産屋から細かく訊いた。なんせ、一年中日中の最高気温が30〜33度という国だ、日本のように夏だけの付き合いと違う。勿論プールに限らず付帯設備<Incidental facilities>は良く調べる必要がある。そして候補物件を選び実際に現場に足を運ぶことが大事。
 ペナンに移住するまで、私は東京の山手線より中のヤカマシイところに30年近く住んでいた。だからペナン島に住むときは静かな場所を選んだ。それでも物件選びは迷うものだ。帯に短し襷に長しという部分がある。最終的に決めたコンドはプールで選んだ。直径30メートル位の円形プールは雨水を貯めて浄化した循環型で水質も良かった。深さはいちばん深くても1.5メートルと浅いのには多少の不満はあったがまぁ良しとした。

 せっせとプールに足を運んだ、たった数日で完全に日課になっていた。ジャグジーで足裏マッサージをしたりプールサイドで肌を焼いた。日に日に同じコンドの人たちと知り合いになってゆく。ここだけで500所帯を超す人が住んでいる、それもなんと国際色豊かなことか。ペナン島では珍しくないことだがここは特にそう感じた。
 ある日、両肩と背中にデハなタットゥの男が泳ぎにきた。スキンヘッドにサングラス、どう見ても怪しい男だった。新宿の歌舞伎町辺りにいるあんちゃんの風体を思い、どこかで犯罪でも犯して逃げてるんじゃないかなどと思った。
 気づいたら泳いでいた私の隣にソイツがいた。同じコンドの住民だしこれからも会うだろうからと話しかけた。
 「どちらの国の方ですか?」
 「オランダです」
 「仕事で滞在ですか?」
 「ハイ」
 「見事なタットゥですね」と言った瞬間から彼の顔が輝いてきた。褒められてうれしかったのか、話したくて仕方なかったのかわからないが流れ出るように説明会が始まった。友人に彫師がいて仲間のグループ数人と彫ったこと、デザインで仲間とわいわい楽しんだこと、通算して20〜30時間掛かり結構痛かった思い出などなど…。
 日本人が親からもらった体に針を刺すことを嫌うとか、特定の職業の人が彫るとか、彫り物のある人を特別な目で見るとか、サウナの入り口にお断り看板が出ているとかいった類と同等なものは全く感じなかった。彼らには人生を謳歌するというカテゴリーで日本人と根本的な思想の食い違いがある。
 もう一つ、彼は見かけと逆のすごい紳士だった。年配者に対する態度、真摯な物言いや礼節が非常にしっかりしていた。これも基本的な教育文化の違いか。私は自分の外観で人を決めるという恥じるべき点を認識し、その後もプールサイドで彼と会うたびにいろんなことを話した。日本人が見るイレズミの話やサングラスに対する島国民族の偏見も説明したことがあった。とにかく文化が違うのが愉快だった。その後わかったことだが、彼は結婚していた。奥さんはマレーシア人で5歳くらいのお子さんもいた。暑い夏になると自然に思い出すひとりだ。