Yoshiaki Murakamiさんへ

倹しやかなお気に入り



 殺風景な私の部屋で
 平々凡々な倹しい暮らしでも
 ささやかな至福の時は訪れる

 
 2階の窓から忍び込む風が
 私の首筋をいたずらっぽく掠め
 白くなった髪の毛を数本靡かせて過ぎてゆく
 とっくに夏なのにこの爽やかさはなんだろう


 窓下に金木犀
 もうこんなに大きくなったか
 芳香を振りまく頃は早やお彼岸か
 静かにさらさらと葉を擦る


 外から聞こえるのは
 遊んでいる子供たちと鳥の声だけ
 コンポにお気に入りのCDをそっと置く
 <新世界>が静かに立ち上がる


 お気に入りの椅子に座り
 お気に入りの本を開く
 手には最近飲み始めたコーヒー
 描きかけのキャンバスから油の匂い


 殺風景な私の部屋で
 平々凡々な倹しい暮らしでも
 ささやかな至福の時は訪れる