ゴールド・ライセンス

免許申請中のひとたち

優越感あり


 今日は気分が良い、「ユウエツカン」というやつを知った。まぁ、逆な言い方をすると、いままで人生60年、本格的な「優越感」という特別な感情を味わえずに生きてきたということになる。そう言ってしまえばなんとなく寂しいが事実だから仕方がないか。
 

 運転免許証を更新するために家から15分くらいのところにある運転免許センターに行ってきた。じつは朝からウキウキしていた。その理由は今日の更新で初めてゴールド免許がわが手中に入るからだ。
 私は都内に住んでいた頃、ちょこちょこ駐車違反をしていた。最後の違反は10年くらい前、当時乗り始めたミニバイクで池袋のびっくりガードを潜って、明治通りを右折したら前にいた白バイに捕まった。ここは二段階右折しなければいけないんですと言われた。「ニダンカイウセツ?何それ?」・・・まったく知識がなかったわけである、私が免許を最初に取得した昭和43年ころそんなのなかった。あの違反には参ったね。


 その後、海外に移住生活を始めて、帰国したらすでに失効、それでも失効期間が1か月くらいだったので、帰国後更新二度目の今日、晴れてゴールドになったというわけ。本来ゴールドになる日が、海外にいたため結果的に3年延びたということだった。でも更新の案内を伝えるハガキには「有効三年・色ブルー・初回講習・4250円」と書いてあった。これは注意書きにあるように、失効理由を証明するパスポートが必要になるという意味だった。


 さて、早めに家を出て免許センターにさしかかったところで大渋滞。なんだろうと思って信号待ちの対向車に聞いたら「免許センターの駐車場があふれている」という返事、、いやはや全く動かない。30分待ってついに諦め、日を改めようかと思った矢先にジリジリ動き始めた。そこからさらに30分で駐車場に入る。なんとずいぶん空いている、どうやらセンターの職員が来場者の多さに誘導ミスをしたらしい。ヤレヤレ。
 建物の中は人で溢れていた。行列は日光のいろは坂のようにうねうねとまさに長蛇の列。あとからあとから人が押し寄せていて列に切れ目はない。仕方ないから最後尾に並び、暇だから人数を数えたら約240名くらいがもそもそうごめいていた。厚着した人たちが蠢(うごめ)く様子を例えてみると、春は遠いというのに啓蟄を待つ地中の芋虫のよう、オレもそのひとり。
 こんな時は好きなジャズ、、、とは言わないが、軽音楽の一つもそっと流せばいのに・・・。こういった時役所はいかにも役所的になる。ああいった場所では顔見知り同士が並ぶことはあまりないのだからお互いの会話もない、まったくの無音、従って行列をもそもそ蠢く芋虫たちも自然に<ブスッ>とした顔になり、雰囲気はますます重くなる。そのうちベビーカーに乗った赤ちゃんが飽きてしまって「アキャーーーー!」と泣き始めるともう大変。狭い館内を子供の絶叫が一人占めする。せめて託児所くらい作ったらどうなんだ。

 
 フムフム、ツラツラ考えると今日は1月4日、年末年始に更新できなかった人が集まるのはわかる。しかし、都内の鮫洲や府中で更新したとき、この日は穴場だったんだ。空いていてチョー助かったことばかり思いだした。そうか、明日明後日が土日に当たるし、千葉県は基本的に人口が多いから正月明けと言えども4日は混雑するんだな、、なんて考えていた。ところが館内放送を聞いていてピカ〜ッ!と閃いた。
 「皆様、本年から運転免許証にICチップが埋め込まれます。更新前に暗証番号を二つご用意ください」
 あぁ、これだね!私も知らなかったがそういうことだったんだ。ICチップの情報が昨年末に更新できる方たちを待たせていて、この新年初の免許センター開場日にどっと集めてしまったんだってことに気がついた。まぁ、それだけではなくいくつかの要素が集まっちゃったせいで人も集まったっていう感じなんだろう。


 それでも私はパスポートを提示し、審査を受けた上でゴールド免許を認証された。ゴールドになると講習も30分で済む。証紙だって他より安い3,250円で良い、更新は5年後になる、保険だってゴールド割引の対象者だ!今までのことを考えると本当に優越感で心が弾んでくる気がする。(単純だね、マッタク)そればかりか、講習を聞く同じ優良運転者の人たちも何となく、物腰の良い理性の高さを感じる。ついに俺もこの仲間入りか・・・、そう考えると気分が軽い。千葉で最初の日に交付されたICチップ免許なんてオマケのようなもんだ。

 まま、冗談はともかく、実際は三人に一人くらいの割合でゴールドらしいからあまり浮かれるほどのものではないが、私の場合はゴルフでイーグルを取った時より、商店街の年末大売出しの福引抽選で一等賞の超高級洋酒セットが当たった時よりうれしかった。60年使ってきた脳内価値感がそうさせたんだろうと思う。なにはとまれ、誰が何と言おうと一格上のレベルの免許を持っているのは事実だった。できるだけこの色の免許を維持したいと思った。


 人は自分の将来においてあれとこれはやる、いや、やりたい…などと言っても実現できないことが多い。私とて同じことである。しかし、私は<これだけは絶対やらない>と誓えることが一つだけある。それは飲酒運転だ。いい年をして刑務所なんてまっぴら御免だ。