暮れなずむ白川郷

暮れなずむ白川郷



 113棟といわれる白川郷の集落は、景観の美しさだけではなく建物が土地に合った機能を持ち合わせていることと、われわれ日本人のノスタルジアを呼び覚ます集落という点で貴重な気がします。
 1995年、ユネスコ世界文化遺産に認定された白川郷は、雪の中の景色ばかりでなくて、こうした紅葉の中の暮れなずむ山村も実にいいものでした。
 いまでも絶えることなく、田植え祭りやどぶろく祭りなどの年中行事が脈々と継続され、季節ごとの彩りは白川の歳時記を感じさせます。これらの家屋のなかには実際に宿泊可能な民宿もあり、他ではほとんど味わうことのできない郷土料理も堪能できます。

 そうとう山の中なのですが、かつては小さな城もあったようで、今はこの萩町を見下ろせる展望台になっていました。
 また、廃村になった集落の一部を移築した「合掌造り民家園」があり、民具づくりや合掌集落の生活が体験できます。内容は機織りやそば打ち、陶芸などで初めて訪れた方にはぜひとも体験することをお勧めしたいと思います。


 そもそも、合掌造りとは茅葺の角度の急な切妻屋根が大きな特徴です。その急な屋根の形が人が合掌しているようだったので命名されたのはご存じのとおりです。本来、合掌造りは白川郷五箇山だけのものではなく、日本の古い民家で全国的に見られた形でした。茅葺きでは雨が伝って家の中に落ちる前に軒へ落す必要があったため、厚みも十分で急傾斜の屋根にする必要があることと、豪雪地帯の積雪時の屋根荷重が分力の法則で構造体に負担をかけないという点で優れています。
 昔の茅葺は材料も安く入手でき、また人件費も近所の人の共同作業でしたから高額なものではなかったようです。いまは時代が逆になり材料費も人件費も到底追いつかず、なかなか美しい茅葺にお目にかかることがなくなりました。白川郷は年配の日本人たちの心に焼きついた故郷です。
 私が到着した時はすでに暮れなずむ時間でした。遊び疲れた子供たちは家路を急ぎ、地酒を商うお店に明かりが灯って何とも言えない胸騒ぎがしたものです。