秋、もの思い〜もの思うゆえに秋

ペナン島で見た夕焼け



 ふわふわと湯気のように揺らぎ立ち昇る秋の空気は、時折人々の心をキュッと締め付ける。朝晩寒くなるとなぜか人肌が恋しくなり、人は少しアンニュイな気分になって膝小僧を抱え込み物思いに耽る。


 ひょいっと車に飛び乗りブルンとエンジンを掛ければどこへでも行ける、ETCとクレジットカードがあれば困ることなんてなぁんにもない。したいことができる。
 お腹が空けばコンビニへ飛び込む、気に入った宿があればそこに泊まる、車さえ捨てて飛行機に乗ればあっという間に知らない国にだって行ける時代だ。こぉんな便利な時代が過去にあったろうか。
 でも・・・人は誰も、時に、この小さな地球という星の上で、少しだけ寂しがる。
 何千年もの間、人は夢と希望を高く掲げてくれた人間に縋って生きてきた。そして裏切られしばらく失望の時を過ごす。
 所詮人間は一人では無力で、限りない無聊をかこちながら、自らの『愚かしさ探し』の旅を続けているのかもしれない。そしてこれからもそれを探すため歩き続けるのだろう。


 今日は素晴らしい秋の日だった。空に穴が開き、そこに誰かがブリリアント・レッドの絵具を溶かし込んだかのような、眩しい夕焼けが一日の終わりを告げていた。


 しばらく見とれていたら、子供のころのことを思い出した。近所の小父さんが畑でたき火をしていた。
 遊び疲れお腹ペコペコで家路を急ぐ悪ガキたちが足を止め、火の周りに集まり手を差し伸べる。パチパチと藁の燃える音、お互いの顔が真っ赤に染まったのがおかしくて屈託なく笑う。やがて身を悶えるように燃え盛る炎と、火の粉を御供にして神の化身のように夜空へ立ち上る煙を見ているうちに、とても神秘的な気分になり誰もしゃべらなくなった時のことを。
 

 あの日、眼に焼き付いた「色」が今日の空にありました。


 <写真はマラッカ海峡の夕焼け>