「ポイントカードお持ちですか?」

Point Card


 たとえ3年足らずでも海外に住んで帰国すると、日本っておかしな国だなぁと思うことがたくさんある。この感じ方には個人差があって、あまり感じない人もいるだろうし、私以上に日本復帰に時間がかかる人もいる。(私の知り合いにそういう人がいた)
 書きはじめるときりがないがひとつだけメモしておく。近くのホームセンターでレジに並んでいるとレジ係の女性が「ポイントカードお持ちですか?」と一人一人に尋ねる。あれって思いきりおかしいと思う。そもそも、持っていればお金と一緒に出すだろう、子供ならいざ知らず。出し忘れたなら自己責任で幾ばくかのポイントが記録されないだけのことにすぎない。何人か並んでいると壊れたレコードのように何度も同じ声が聞こえる、もうこうなると客というよりベルトコンベアーに乗せられた大量生産部品のようだ。お金を持って並ばされているようで情けない。私にはなんだか持っていないと損しますよという親切めかした強迫にも感じる。
 私がお金を払うため並んでいたら、私の前の二人はいずれも持ってなくて「持ってないよ」と答えた。私は答えるのが面倒なので苦笑いしながら首を振った。女性は相手の答えがなんであろうとというような速度でレジを打ち980円ですと告げる。私は千円でおつりを受け取り外に出たが、あっイケネ、乾電池を忘れたと思い出しもう一度店内に入り、単三の乾電池を2本買って再びレジへ。今度は誰も並んでいない、同じ女性に同じように「ポイントカードはお持ちですか?」と聞かれた。「いいえ」とは言ったものの、オイオイたった3分前のことだぜとあきれてしまった。もちろん女性が変なのではない、そういう風にマニュアルを教え込んだ上司がいるせいであることは想像できる。
 それはともかく、そんな制度を商売に結び付けた人は頭のいい人じゃないかと想像した。(どんな風に頭が良いか言いにくいが…)日本人の特性を見抜いている節がある。どうも日本人は自己を認識するより(あるいは同等に)他人に意識が向く傾向がある。歴史的には単一民族に近く、単一のオリジンを内包しているのだから仕方ない部分もあるだろう。自分と同じ量の買い物をした誰かがそのポイントをタダで別な商品に替えているのを見れば何かやり損なったような気になっても不思議ではない。家電の量販店であろうがデパートであろうがサウナであろうがホームセンターであろうがゴルフショップであろうがチャチな熱帯魚屋であろうが、自分の店にあるいは会社に客を取り込んでよそに行く回数を減らしたいのは理解できる。
 つまりポイントを貯めると得をするという共通概念を購買者心理に汎用化したのだ。<只今お買い上げになると10%のポイント還元中です!>と店内のスピーカーが繰り返しガナっている。それならレジで10%値引きしなさいよと言いたいがどうせ駄目なんだろうと誰も何も言わない。余計なことを言わないのが日本人ですとばかりに。10%というと1割値引きと錯覚させるテクニックもある。ほかの品物と変えるということは実質5〜7%の還元にほかならない。そんなカードいらないよというと自動的に10%高いものを買う羽目になる、それもなんとなくシャクだ。ずいぶん客の心理を逆なでしている気もする。
 本来ならレジで「いらっしゃいませ、毎度ありがとうございます」という定型慣用句を言ってしかるべきところ、「ポイントカードをお持ちですか?」と客に一種の常識化を働きかけ、タガを嵌める効果を期待してるのだろう。でも私にとっては毎度毎度、それも3分後に同じセリフを言われるというのは実に鬱陶しい限りである。まぁ、こんなことを書いても「そんなこと言ったってねぇ、仕事なんだから…」と非難されそうだからこれ以上は止めましょう。
 今日から飲酒運転の厳罰化を軸とした改正道路交通法が施行された。現役の頃は家で食事するより居酒屋で済ます方が多い時期もあった。でも今はぐっと減った。少なくはなったが時々はふらふら出かける。暖簾をくぐって椅子に落ち着いて「お車ではありませんね」とか「お帰りにお車の運転はなさいませんね」と言われたのは一回こっきりである。こういった声掛けなら何十回しても良いんではないかと思うんだが…。