蓮のはなし

川村美術館の古代蓮

  
 散歩の途中できれいな蓮(ハス)の花を見た。その薄紅色には思わず目を引きつけさせる魅力がある。
 夕方、NHKのニュースを見ていたら、「音を奏でる蓮」という話題を取り上げていた。写真のような大きな葉に溜まった雨水が日中の夏の太陽と光合成して、ちょうど沸騰したような現象を起こすとき独特の音になる。どの蓮でも同じような現象は起こると言っていたから今度は注意して眺めてみようか。いや、なかなかたいしたものだった。
 ちょうど一年ほど前、佐倉市にある川村美術館に二人で出掛けたおり、美術館の池で見事な古代蓮大賀蓮)を見た。大柄で鮮やかで優美で、、初めて出会った私たちはただただじっと見惚れるしかなかった。(今日の写真はその時撮影)

 この古代蓮のことをすこし学習してみた。
 昭和24年というから60年近い昔、検見川の元東京大学総合グラウンドで発掘調査をしていた慶大調査団が丸木船3隻とオール6本を発見した。そこは「縄文時代の船だまり」という結論が出た。昭和26年、植物学者の大賀一郎博士はなにかその時代の植物の種子があるのではないかと推測したようで、博士の情熱に心動かされた地元の花園中学校の生徒たちと共に発掘調査を開始した。
 なかなか見つからず、翌日の3月31日以降の発掘は中止が決まっていた30日夕方、西野真理子さんという中学生が地下6メートルの層から発見、以後相次いで計3個の蓮の実が見つかった。この発見はたいへんな意味があった。大賀博士は蓮の実や船の一部をシカゴに送って年代鑑定すると2千年前のものだったことが判明する。発見した3粒の発芽を試みた、2粒は失敗したが最後の一粒は奇跡的に発芽した。
 発見場所の千葉市は市の花に指定し、今は千葉県の天然記念物にもなっているとのことだ。いまではその根を世界各地に分けて親善の役を担い大賀蓮として咲き競っている。古代蓮はそのほか埼玉県の行田市の沼や岩手県中尊寺金色堂でも発見されている。
 古代蓮ではないがマレーシアに住んでいた頃、スンガイペタニのハーバード・カントリークラブの池にもたくさん咲いていたことを思い出す。蓮の原産地はインドと云うから日本より早く渡来(渡馬)したかもしれない。因みに仏教とは縁の深いインドとスリランカは国の花に指定されているそうだ。

 大賀蓮は、朝開花して午後早い時間に花を閉じる。それをたった3回繰り返し、4回目に開花するとそのまま静かに散っていく。比類なき美しさとその散り際はあまりにも見事で哀れささえ感じる。どこかの国の首相のみならず、ズタズタになるまで権力の座にしがみついている政治家や役人は、古代蓮を眺め花になにかを教えてもらうといい、もっとも、花を愛でる心があれば娑婆にみっともない姿を晒すこともないか。