Vol.3 夕暮れのペナン島と新しい交通網

マラッカ海峡を行くフェリー


 この写真はマラッカ海峡バターワースからペナン島に向かうフェリーの中から撮影した。実際はもっと暗いのだがデジタルはこれほど明るくしてくれる。ペナン島に夕闇が訪れ人々は家路を急ぐ、実に平和な景色に見える。
 2年位前のフェリーの運賃は車ならRM(リンギ=マレーシアの貨幣単位)7だったが今は少し上がっているだろう。車に人が何人乗っているかは関係ない。RM7というと今のレート(RM1=35円くらい)で大体245円、島に入る時に支払い出るときは無料というシステムなので往復料金ということになる。歩いて渡るかバイクの人間一人の運賃はたしかRM1以下だったように記憶している。

 もちろんフェリーが襲われることはないだろうが、この辺は結構物騒なことで知られる。2004年の1年間にマラッカ海峡で37件の海賊事件が起きた。
 2005年3月14日に日本のタグボート韋駄天(いだてん)の船長ら3人が拉致され、その後に解放される事件が起きてショックを受けた記憶がある。韋駄天は写真後方のバターワースに曳航された。その後も海賊事件は続き、4月1日未明、この海峡で三菱商事の子会社が所有する貨物船オーシャン・ブリッジ号が海賊に襲われて現金約215万円ほどが奪われる事件もあった。この事件は今でも当時の華人系新聞を保存してある。
 なんでこの時代に<海賊>なんだろう、時代が違うよ、マレーシアらしいと言えばそうなのだが。
 同時期、アメリカが海峡警備の応援を申し出た時、マレーシア政府は即座に断った。マハティール・イズムのせいか、イスラム圏の国として意地を貫いたのか、はたまた両方なのかは分からない。やせ我慢したって海賊の船の方が早いんだから取り締まりは出来ない。「はい、お願いします」と言えばすっ飛んでくるのにな、プライドってぇやつは時には邪魔になるものだ。俺らは幸い持ち合わせがなくて好都合っていうこと。

 ペナン島は位置的にタイのプーケットに近い。北のタイから南端のシンガポールペニンシュラ半島があって、その北西部にペナン州がある。マレーシアでも面積の小さい州だ。半島側にバターワースというマラヤ鉄道の駅を持つ町がある。そこからペナン島に渡るにはこのフェリーを使うか、ペナン大橋を車で渡るかいずれかである。
 最近そのバタワースにペナン・セントラルという一大交通の要所を作ろうという話が進んでいるらしい。これはトータル的なトラフィック・ハブでバスのターミナルと鉄道の駅とフェリーの交通機能を結ぼうということで来年から着工される計画である。10年計画ということだが実現すればバターワースは国内有数の拠点となるだろう。今までも拠点は拠点だったがすこし貧相すぎた帰来はあった。
 ところがマレーシアというところは計画はしてもなかなか始まってみないとわからないところがある。ペナン島から半島にかかる橋は13.5キロというアジアでも有数の長さがあり、かつて日本も含めた入札競争の末韓国のプロジェクトが完成させた。それももう物理的に満杯状態でパンク寸前、そこで第二の橋をという計画も何度流れ流れたことか。だがこちらの橋の話もなんとなく中国の企業と合弁でスタートしそうだというニュースはある。
 島には左手に見える大きなランドマークがある。マレーシア第二の商業都市ジョージタウンのシンボル的存在でコムターと呼ばれる。その周辺も開発が進み、新しいバスシステムが稼働を始めたとのこと、150台のバスが島と半島側で往復し運賃はフェリーと変わらない程度で走るんだそうだ。
 ペナン州には東芝・シャープ、SONY、東洋レーヨンなど多くの日本企業とアメリカのIntelといった世界企業の工場がひしめいている。朝は半島側から島へ通勤する人と島から半島側へ通う人ですごいラッシュになる。この新しいバス交通網は半島と島の間だけでなくフェリーターミナルのあるJT埠頭とコムター間も運航することで、日本のように地下鉄や電車がない市民にとっては相当有効な足になるに違いない。